2008年01月11日

小説「クリプトノミコン」(ニール・スティーブンスン著)のメッセージ

クリーブランドの埋蔵金

昨年末、フィリピン政府が財宝探しを許可制とする方針を打ち出したとのニュースが駆け巡ったのをご記憶でしょうか?山下財宝を始めとするこの種の宝探しが、自然環境を破壊し、人身事故の危険性も高いことからの対応とあります。フィリピンの埋蔵金探しはことほど左様に盛んなようです。
<参照>例えば朝日ニュース

アメリカ人による山下財宝探しを題材に著されたエンターテインメント小説が、ニール・スティーブンスンの「クリプトノミコン」(1999年)です。フィリピン政府は許可を受けた者がお宝を見つけた場合は山分けと都合よく決めたそうですが、小説の主要人物アビの目的はちょっと異色です。著者はアビをユダヤ人とし、今後二度とホロコーストが起きないようにするための資金確保をその動機と設定しました。

アビは、既にホロコーストに対抗してゲリラ戦を遂行するための指南書を著しています。このマニュアル書のタイトルが「ホロコースト教育および回避に関する情報集」、略して"HEAP"です。彼は財宝によって"HEAP"を配布し、実践のための準備(つまり特殊な武器を製造したり、ゲリラ戦訓練を施すこと)をするつもりでいます。

私は記事「映画『レディインザウォーター』のメッセージ6」で"HEAP"を採り上げました。同作品の中でもう一つのゲリラ戦マニュアル"The Anarchist Cookbook"が示唆されていたからです。こちらはベトナム戦争時に米政府に武器を持って立ち上がるよう説いた現実のアブナイ書物です。この本を調べるうちに"HEAP"のことを知り、映画の主人公の名が"Heep"だったことから正しく道を辿っているとの感触を得た経緯があります。
(参考)映画「レディインザウォーター」のメッセージ6

その後、同音異綴であることから少し迷いもしましたが、監督のシャマランが発音で遊んでいることから(Jesus ChristとJGs Crunt、an halfとa narf、Heepとhipなど)、この判断が誤りではなかったと今は結論しています。シャマランは"Cookbook"をパン屑にして、観客に"HEAP"への道を指し示していたのです。

正月休みにようやく「クリプトノミコン」に当たることができました。そして"HEAP"が単に一人物の動機に限定されないことを確認しました。もう一人の主人公ランディは「ぼくらが命を賭けてもいいくらいに崇高かつ最良の目的は...”将来のホロコーストを防ぐこと”だ」と言っています。共に発掘作業に当たる牧師イノックは、"HEAP"を批評はしていますが、基本的には同意しており、歴史上何度も人類が突き動かされる戦争衝動(アレス:ユダヤ人迫害を含む)からテクノロジー(メティス:暗号やHEAP銃のことでしょう)によって身を守らなければならないとの独特の信念を抱いています(著者の思想とも思われます)。

もう一人、埋蔵金を埋めた張本人の後藤は、アビから埋蔵金使用目的を聞き、戦争を無くすためならと発掘を引き受けます。最後に埋蔵金を手にする者たちの動機は完全に一致しています。ホロコースト防止がこの小説の鍵となっているのです。

映画「レディインザウォーター」の主人公の姓名は、"HEAP"と"Cleveland"の組み合わせでした。アメリカのクリーブランドに埋められた埋蔵金(石油)を既に掘り出した者がいるのですから、ホロコースト防止のためにわざわざフィリピンまで出かける必要はないのかもしれません。20世紀最大の資産家ロックフェラー家の同意さえあればHEAPプロジェクトは推進できるのです。


*私もホロコーストが今後繰り返されないことを願います。しかしデイヴィッド・ロックフェラーが手掛けていると推測しているプロジェクトには反対です。彼らのやり方は、別種のホロコーストを幾つも引き起こすことになるでしょう。
*繰り返し書いておきますが、ユダヤ人への偏見を煽る意図はありません。


クリプトノミコン〈2〉エニグマ (ハヤカワ文庫SF)

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映画(劇場公開・DVD・ビデオ)、書籍、ニュース、キャンペーンなど、メディアを通して表現されたものからメッセージを抽出し、隠された意味や表現者の意図を探ります。

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