2007年10月07日

映画「サンキュー・スモーキング」(Jライトマン監督)のメッセージ

ハリウッド映画にドクロマーク

主人公は煙草業界の利益を代表して政治に影響力を行使するロビイスト。彼は「情報操作(スピン)の専門家」を自認し、上司は「真実を隠すのが役目」と露れもなく言い放ちます。そんな彼らの常套手段を映画「サンキュー・スモーキング」は私たちに教えてくれます。それは「論点をすり替えて、正論で相手の弱点を突く」ことだそうです。

主人公は自分の息子にアイスクリーム談義でこの極意を伝授します。主人公好みのバニラアイスが最高であることを巡っての論争とします。父は息子の好みを尋ねます。「チョコ」と答えた息子は、勢いで「チョコ以外は不要」と口にします。すると父は「アイスクリームは選べる方が良い」と反論します。論点はバニラアイスの秀逸性ではなく、選択性に替わっており、正論ですから論争は父の勝ちとなります。

果たして主人公は現実の場でこの手法を実践します。煙草規制強化を狙った議会の公聴会で禁煙派政治家は主人公に煙草の害を認めさせます。勢いづいた政治家は主人公に「そんな煙草を自分の子供が吸いたいと言えば認めるのか」と畳み掛けます。そこで主人公は「親はすべての危険について子供に教える義務がある」「個人の選択の自由を尊重する」との正論を展開し、「18歳になった子が吸いたいと言えば買い与える」と返します。本来の論点(煙草規制強化の是非)とは異なっていますが、公開討論の勝敗はそれで決します。

さらには、同じ手法が作品そのものでも展開されています。この映画の主題は「社会に有害な製品のロビー活動は許されるか」のはずです。主人公はチーズの害に注意を喚起し、煙草の害を相対化した上で、「誰もが自分の才能を伸ばす権利がある」「職業選択は自由」との正論を振りかざして煙草ロビイストを「是」と結論づけてしまいます。ただし、そんな職業選択の例として殺人者マンソンを挙げていますから、作品は本気でそのような主張をしている訳ではなく、「ほら気をつけて、この映画自体が情報操作かもしれないよ」と目くばせしています。

そう思って作品を振り返ってみると、さすがに煙草は登場しないのですが、替わりに銃やアルコールが肯定的に取り扱われているのに気付かされます。暴漢に襲われた後で自衛のための銃を親切そうに差し出す友人。これを見て「クール」と叫ぶ子供。美人記者との食事で特定銘柄酒を最大限の褒め言葉で推奨する主人公。作中引用されるアメリカの原因別死者数は次のとおりで、何やらアルコールや銃が大した問題ではないようにも思えてきます(1位とされるチーズは除く)。
煙草:1,200人/日
アルコール:270人/日
銃:30人/日


作品を観終わると、彼らロビイストにはある種痛快なイメージが、対する規制派の政治家やロビイストを批判するマスコミには不様でインチキ臭い印象が残ります。ジェイソン・ライトマン監督は、それが作為であり、作品が結局は当該ロビー活動のPRであり、銃やアルコールのPRを画策していることを私たちに気付かせようとします。どうやら映画「サンキュー・スモーキング」は、「映画による情報操作(フィルムプロパガンダ)に対抗するための教科書」を意図しているようです。

そのとおり、フィルムプロパガンダに無自覚な鑑賞者の多い現状にあって、警告マークの必要性が高いのは映画です。曰く―
ハリウッド映画にはくれぐれもご注意ください。あなたの精神を蝕む恐れがあります。

(参照)映画「レディインザウォーター」のメッセージ4 (などなど)

収録時間:93分
レンタル開始日:2007-09-07

Story
『カンバセーションズ』のアーロン・エッカート主演によるコメディドラマ。ニックは連日マスコミの矢面で戦い続けるタバコ研究アカデミーの腕利きPRマン。タバコのイメージアップ作戦を任された彼は、一人息子を連れ(詳細こちら

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