2007年05月13日

映画「硫黄島からの手紙」(クリント・イーストウッド監督)のメッセージ

各人各様の正義

もう一度言います―映画「父親たちの星条旗」は反戦映画ではありません。確かに戦争を残酷なものとして描いてはいます。しかし多くの映画評論家たちや反戦家が主張するような「戦争非難」、特に「イラク戦争非難」のメッセージはどこにも見当たりません。私は以前の記事で、この作品が反戦と利戦(戦争利用)の両方の立場から身を引き、両者を相対化する立場に足を据えていると書きました。続編である本作「硫黄島からの手紙」によってイーストウッド監督のメッセージが鮮明にされました。
(参考)映画「父親たちの星条旗」のメッセージ

映画「硫黄島からの手紙」に、米兵捕虜の手紙が読み上げられるシーンがあります。ここは自分たちも米兵たちも同じ人間であると日本兵たちが認識したシーンとされます。ここにとても手紙の送り主である母親が書いたとは思えない文章が差し込まれています。いわく「正義を貫けば、それは正義となる」。この英文は"Always do what is right, because it is right."ですが、同じ英文ですぐ続けて西中佐が自害直前にこう訓令します。「正しいと思う道を行け。それが各々の正義だ」

重要で印象的な二つのシーンにおいて繰り返されたこの文・セリフが本作のメッセージを差し示していないはずはありません。「絶対的な正義は存在しない。各人が己の信じるところに従って突き進むところに正義がある」とかなり独特の主張をしています。そして敵味方の立場を超えて、この思想を体現する者たちを称賛しています。
(参考)書籍「罪と罰」のメッセージ (ドストエフスキーが警告した「万人の万人による戦い」)

このメッセージに従えば、前作に描かれた硫黄島の星条旗掲揚に関わる欺瞞も、時の政府・軍部が信じるところに従って遂行したものであり、そのこと自体は間違っていないことになります。映画「父親たちの星条旗」公開当時は、イラク戦争開戦時の大量破壊兵器に関わる証拠がブッシュ政権によってねつ造されたとの疑惑がマスコミ、議会を揺さぶっていました。イーストウッド監督の意図が、イラク戦争反対どころか、この疑惑を一蹴しようとするものだったことが理解できます。

所々に外国人監督なるが故の見落としはあるにしても(映画「バベル」同様)、映画「硫黄島」シリーズの品質は高いと思います。しかしそのこととは別に、2作品に貫かれているメッセージには相当のきな臭さを感じずにはいられません。イーストウッド監督のメッセージは、特定の人々が自らの信念に基づき、例え911事件を引き起こしていたとしても、彼らを擁護するものです。この危険性がどうして認識されないのか、なぜ見当違いの論評が為されるのか、私は不思議で仕方ありません。

スティーブン・スピルバーグ製作作品です。

収録時間:140分
レンタル開始日:2007-04-20

Story
『ミリオンダラー・ベイビー』のクリント・イーストウッド監督が、硫黄島の戦いを日本側の視点から描いた戦争ドラマ。硫黄島で36日間にも渡る激戦を繰り広げた兵士たちの素顔が、数十年後に発見された手紙から明かさ(詳細こちら

getmessage at 09:31 │Comments(6)TrackBack(0)映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by サトシ    2007年05月13日 13:11
「バベル」にも通ずるところがあると思うんですが、このブログにこんな事書いてありました。
http://alternativereport.seesaa.net/article/32155185.html
「硫黄島からの手紙」が怖いのはこのロジックすら逆手に取ろうとしている事でしょうか。
「絶対的な正義は存在しない。」というのを前提にしておいて、
「各人が己の信じるところに従って突き進むところに正義がある」という主張に結びつけてしまうのはかなりきな臭いです。

「父親たちの星条旗」のメッセージ内にあった「億万長者はハリウッドを殺す」の著者、広瀬隆さんも「硫黄島からの手紙」に御不満のようです。
60分の講演を三つにわけたものなんですがその3番目の9分半辺りから硫黄島について興味深いお話をしています。
http://video.google.com/videoplay?docid=-1620179726859242856&q=%E5%BA%83%E7%80%AC%E9%9A%86%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A
2. Posted by zero    2007年05月13日 22:21
サトシさん、今回も情報をありがとうございます。

<オルタナティブ通信の記事内容について>
今、キリスト教を解体しようとする動きが活発です。私は「原理主義同士の戦い」という構図も、極端な行動に対する反動としてのキリスト教(イスラム教も?)打倒戦略も、同じ人間たちが構想したものではないかと疑います。キリスト教という存在自体が戦争を惹起すると断定する見解は原理主義ではないのでしょうか?

<広瀬隆さんの講演ビデオについて>
広瀬さんの人間味が伝わって面白かったです。「硫黄島からの手紙」は反戦映画ではありませんから、広瀬さんの期待には応えられないでしょうね。次回著作が楽しみです。
3. Posted by サトシ    2007年05月14日 03:18
>極端な行動に対する反動としてのキリスト(イスラム)教打倒戦略も同じ人間の構想
>キリスト教という存在自体が戦争を惹起すると断定する見解は原理主義
確かにその通りですね。当ブログを見ていれば分る事でした。すいません。御指摘ありがとうございます。
オルタ通信さんは中でも原理主義を強く批判したかったのだと思います。ただ、極端に鋭いカウンターの出現を感じた時、その時こそ慎重になるべきかもしれないと思いました。

広瀬さんの語り口は独特の温もりがあって引き込まれますね。まさか児童文学の作家を志していた方だとは思いませんでした。
4. Posted by zero    2007年05月14日 08:42
サトシさん、謝るのはこちらです。サトシさんを非難するつもりも、ブログ主宰者を責めるつもりもありませんでした。言葉足らずでした。

宗教に関して世界規模で特定のキャンペーンが展開されているのは確かで、そうした人間たちの動きを知る意味では、今回教えていただいた情報は役に立ちます。感謝しています。

ついでに記せば、「原理主義」というのも怪しい言葉で、宗教の原点に立ち返ることが悪いとは私には思えません。本当の原理主義者は「聖戦」なんて考えないでしょうし、「核戦争」を待望したりもしないでしょう。イスラム原理主義も、キリスト原理主義も、言葉が歪められており、キャンペーンの産物と感じられます。
5. Posted by サトシ    2007年05月14日 15:38
実をいうと原理主義という言葉に対するイメージ、僕の中では大分悪い物になってしまっていました。

フィクサー達が、選択肢を多くすることで大規模な無関心を蔓延させることや、信教の自由という思潮を世界に輸出して既存の真摯なキリスト教の根底を揺るがそうとしているといったような話も聞いたりしました。

宗教の原点に立ち返ろうとする人達や原理主義という言葉に対するイメージを改めようと思います。
6. Posted by zero    2007年05月14日 20:10
そのとおり、原点に戻られては彼らの努力が台無しになるので都合が悪いということでしょう。

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映画(劇場公開・DVD・ビデオ)、書籍、ニュース、キャンペーンなど、メディアを通して表現されたものからメッセージを抽出し、隠された意味や表現者の意図を探ります。

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