2007年04月29日

「ダヴィンチコード」のメッセージ1

古代女神の聖杯(ハイパー・ルネッサンス)

どうして欧米の人々はキリスト教を否定するのにレオナルド・ダ・ヴィンチを持ち出すのだろう?―前々から私が不思議に感じていたことです。キリストの遺体を包んだとされる聖骸布。これが偽物であるとの主張は世に山ほどあるのですが、聖骸布をダヴィンチが製造したとするイギリス発の説(1994年)ほど信ぴょう性がないものもありませんでした。立場がどちらであっても、まずまともな議論の対象にならないはずの説が、案外いまだに有力だったりするのです。不思議は極まります。
<参照>wiki"Shroud of Turin(トリノの聖骸布)" (ダヴィンチ説

西洋人にとってレオナルド・ダ・ヴィンチは「神なき時代の神」なのでしょうか。この人物の名を持ち出せば、どんな奇説でも信頼に価するとでも考えているようです。このコンテクストの中から小説「ダヴィンチコード」は登場します。レオナルド・ダ・ヴィンチが「マグダラのマリアはイエス・キリストの妻だった」と知っていて、そのメッセージを絵画に託したと作品は主張します。仮にそれが真実だったとしても、このことはダヴィンチの認識以上の何事をも意味しないのにも拘わらず、世間はキリスト教の土台を揺るがしたかのような大騒ぎです。(ましてダ・ヴィンチの研究者たちからはダン・ブラウンの主張を支持しない論説が数多く出されています)

そんな次第で、私は小説にしろ映画にしろ、この作品を採り上げる気になれないでいたのですが、映画「コンスタンティン」が円と十字の図像で「男性原理と女性原理の合一」を象徴させていたことに気が付き、「ダヴィンチコード」が全く同じ意味の別の図像を作品の核に据えていると分かれば放っておく訳にも行きません。作品を読まれた(観られた)方には印象深いはずの、上向きの三角と下向きの三角を合せて描いた六角形の星型のことです。

ダヴィデの星、ソロモンの紋章と呼ばれるこの図像の、まず下向き三角だけに焦点を当てて今回は考察したいと思います。古来「女性、地、水」をシンボライズするこの形に、ダン・ブラウンは12世紀に現れた「聖杯伝説」を重ね、さらにマグダラのマリアにまで何としても結び付けようと苦労しています。尤も後半部分で苦労したのは「レンヌ・ル・シャトー」の著者たちですが。彼らはイエスキリストの血を受けたとされる聖杯が実はマグダラのマリアその人を指し示しており、イエス・キリストの血脈が彼女によってフランスのメロヴィング朝に引き継がれ、現代にまで保たれていると主張します。

一般的にはキリストの血を受けた聖杯伝説と血の肉体的継承とは結び付きません。「レンヌ・ル・シャトー」の著者たちはこの点で大きく飛躍しています。ところが調べているうちに、聖杯伝説と血の継承とを結ぶ線に関する興味深い考察と出会うことができました。王家の血脈を保持すべき任を負った女性たちの存在を伝える「妖精の少女(Elf-maiden)伝説」がケルト世界にあり、この伝説が聖杯伝説の原形となったというのです。
<参照>サイト"American Chronicle"の記事"Royal Blood, Holy Blood, Fairy Blood: the meaning and legacy of Sangreal!" 
ケムログ(ここから上記ページに導かれました。数回に分けて翻訳してくれています)

Dirk Vander Ploegは以下の趣旨で論を展開します。3,000年前に南進したスキタイ民族がメソポタミアの地にアヌ神信仰を広めた。このアヌ(Anu)の血筋をアントゥ(Antu)、キー(Ki)から始まって代々の妖精の女王が受け継いでいる。エジプトの歴代のファラオたちはすべてこの女王の子孫を妻に迎えることで正統性を得た。ダビデからイエス・キリストに至る血筋にも妖精の女王は関与している。マグダラのマリアはその一人で、イエス・キリストの血をさらにメロヴィング朝へと伝えた。これがケルトの「妖精の少女伝説」の源であり、「ダヴィンチ・コード」に描かれた聖杯伝説へとつながっている。

F・コントは「世界の神々・神話百科」で、地上の王権がアヌの王権(王冠と王杖)に由来するとの古代の神話に言及しています。この王権を時の権力者が移り替わっても後の世に伝える隠された仕組みが存在していると上の記事は主張します。ダヴィデ王朝は前後3代で実権を喪失しており、仮にそうした女系家があったとしても、イエス・キリストまで代々フォローしていたというのは到底ありそうにない話です。その一方で、王朝が変遷する中で血脈を守り続けるための「万世一系の女系血統」の概念は、それなりに筋が通っているとも思えます。

記事の解説に登場するアントゥ(アヌの妻にして姉妹)の子エンキ(Enki)の妻に当たるのがイシュタルで、この女神はアントゥと同一ともされます。シュメール神話ではアヌの妻はイナンナ(「アン(天=アヌ)の貴婦人」の意)とされますが、やはりイシュタルと同じ女神のことです。イシュタルと言えばグレイヴズが信仰していた暗黒の女神であり、そのときの記事で触れたようにイシュタル・イナンナ信仰は、西に移動してアシュタロト(カナン)信仰、アシュタルテ(フェニキア)信仰となり、キプロスを経由してギリシャに至りアフロディーテ信仰へと姿を変えます。外観を変えながら同じ女神がまっすぐに後世へと伝え続けられる様は、肉体レベルの女系血統のイメージと重なります。
(参考)書籍「暗黒の女神」のメッセージ

妖精伝説とメロヴィング朝を結びつける伝説は意外なところにも見出すことができます。シェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」で知られるオベロン伝説です。戯曲中のオベロンは魔法を操る妖精の王で、王妃ティタニア(Titan-ia)と養子争いを演じます。wikipediaによれば、オベロンはメロヴィング朝の歴史説話として伝えられた物語に登場する魔法使いAlberich(英語読みでアルベリック?)がモデルだそうです。Alberichは開祖クロヴィスの兄弟とされ、長子のためにコンスタンティノープルの姫から結婚の約束を取り付けた人物とされます。(13世紀「ニーベルンゲンの歌」にもニーベルンゲンの"宝"を守る人物として登場します)
<参照>wiki"Oberon"

このオベロン伝説を上の妖精少女伝説と重ね合わせてみると、一つの仮説が浮かび上がります。時々の権力者(王朝)との結婚を通して特定の女系の血脈を保持すべく努めている人々が存在する。実際に彼らはエジプト王朝で成果を挙げ、東ローマ帝国(コンスタンティノープル)においても成功していた。その後、開祖周辺からメロヴィング朝王室に入り込んだ彼らは、イエス・キリストとは何の関係もなかったが、クロヴィスをしてキリスト教に改宗せしめ自分たちの血統を時のメインストリームであるキリスト教に接ぎ木し直した。その後も脈々と血は受け継がれている。

現実の出来事としてこの仮説を捉えるとすれば、次の問いが続きます―一体、どこで?「ダヴィンチコード」はメロヴィング朝の子孫と守護者たちが暮らす地をフランスではなく、ロスリン礼拝堂のスコットランドに設定しました。戯曲「夏の夜の夢」で妖精の王と女王に正統な子を巡るさや当てを演じさせたシェイクスピアの国、イギリス王室へと古代女神の聖杯は渡されたのでしょうか。

シェイクスピア全集 (4) 夏の夜の夢・間違いの喜劇

ダ・ヴィンチ・コード〈上〉

収録時間:149分
レンタル開始日:2006-11-03

Story
ダン・ブラウンの世界的ベストセラー小説を、トム・ハンクスとオドレイ・トトゥ共演で映画化したサスペンス巨編。ルーヴル美術館長殺害の容疑を掛けられたラングドンは、館長の孫娘・ソフィーに助け出されるが…。(詳細こちら

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この記事へのコメント

1. Posted by サトシ    2007年05月04日 06:15
zeroさんお久し振りです。
今回もとても面白かったです。
女系の血筋が、キリスト以前からあり、それがメインストリームの宗教や王族などの下に隠れながら、土地や権力者達の間を渡って受継がれているという仮説に凄い説得力を感じました。
シェークスピアがこの血統について熟知した作家であることを作品の中から見てとれるという論も面白いです。
「夏の夜の夢」はよく知らないお話ですが、ネット等であらすじを調べてみた所、なるほど、オベロンとタイタニアの間の養子争いの物語や妖精少女物語に、この血統の存在の影が見隠れするというのは凄い発見のように思えます。
以前からハリウッドはどうして最近、ダヴィンチコード的な考えを推す作品が多いのか不思議でした。
2. Posted by サトシ    2007年05月04日 06:19
実は、先日、「オーメン666」を見て、ダミアンが「ジャッカル」から生まれたことを知り、更にラストで大統領と手を繋ぐダミアンが振り向いて無気味な笑みを浮かべるのを見て、当ブログ「666のメッセージ2」で指摘していた通りブッシュ大統領をフィクサー達が「終わりの獣」にしたいという意図を再確認しました。
気になったのが、この映画で動物園の猿達がダミアンを異様に怯えるシーンを見て思い出した映画がありました。

ティム・バートン監督の「猿の惑星」です。

ハリウッドが南北戦争を想起させる作品を連続して発表している事を思うと、あの映画のラストシーンのモニュメントが、68年度版に倣って「自由の女神」とせず、「猿の将軍」になってしまった「リンカーン大統領」の像になっていたことが急に気になり出したのです。
3. Posted by サトシ    2007年05月04日 06:21
で、見直してみた所、冒頭で主人公の乗っている宇宙探索船の名称が「オベロン」、物語で重要な役割を演じる「猿」の名前が「ペリクリーズ」というので驚きました。
ウィキペディアで調べてみた所「ペリクリーズ」というのはシェイクスピアの戯曲の題名だったんですね。離ればなれになってしまった妻と娘と再会する、というあらすじを見ても、zeroさんの論を強く確信させるものがあります。
マリア信仰の事が気になっていた僕にひっかかったのがこの戯曲の中に登場する「エフェソス」という地名です。処女で子供を生むアルテミス神が祀られているこの場所で禁じられていたマリア信仰を公認させたのが431年のエフェソス公会議だという話があるようなので気になります。
やはりシェークスピアは怪しい人物ですね。
4. Posted by サトシ    2007年05月04日 06:25
聖杯は、血統自体はイギリス、スコットランドに渡り、テンプル騎士団がフランスからフィリップ4世に追い出された時に物証としてのマリアの遺体は取上げられてしまった。だからフランスは恨まれているって仮説はどうでしょうか・・・?
以前から気になってるハリウッドの中で描かれるフランスへの敵対意識、↓こういう事なのではないかと思えてきました。
http://alternativereport.seesaa.net/article/33661289.html
http://alternativereport.seesaa.net/article/33662103.html
↓あとマリアに関して、同じページですが、こんなのがありました。
書かれていることにどこまで信憑性があるのか無知な僕には検証出来ないんですが、どうでしょう。
http://alternativereport.seesaa.net/article/25622206.html
5. Posted by サトシ    2007年05月04日 06:36
宇宙人の話まで出て来るとホントに「ちょっと待って」って思ってしまうんですが、
「人肉食い」と言えば「羊たちの沈黙」シリーズがあります。
ヒロインクラリスに「羊たちの悲鳴はまだ聞こえるか?」と問いかけるレクターを見ていて、zeroさんの「アイランド」の解釈を思いだしたのです。
幼少期のクラリスが牧場で屠殺される羊の姿を見て柵を開けて逃がしてあげようとするのですが羊達が逃げようとしない。そこで羊を一匹連れ出して遠くまで逃げようとするけど失敗してしまった。この話を聞いたレクターはクラリスの捜査に協力するようになります。
レクターはクラリスを貶めたFBIの男を喰べる時、クラリスを黒いドレスに着替えさせますが、暗黒の女神を想起しました。

6. Posted by zero    2007年05月04日 10:03
サトシさん、こんにちわ。

サトシさんのご指摘はいつも刺激的で楽しみです。

現在、「ダヴィンチコード2」を記事にしているところです。サトシさんご指摘のフランスコンシャスについての仮説をもう少し進められると思います。まずこの仕事を片付けてから、各情報をフォローし、順次思う点などをご返事させていただくつもりです。
7. Posted by zero    2007年05月06日 15:10
コメント4の2007年02月12日の記事について

驚きました。映画「レジェンドオブゾロ」でアーマンド・ハマーに着目して以来、この人物がロックフェラーフィルムを解明する上でも、現代の国際政治を読み解く上でも、一つの重要な鍵になるだろうと推測し、カテゴリーを設けたのですが、その後記事にできないまま今日に至っています(正直、手が回りません)。オデッサの石油から彼とゴアやヒラリー・クリントンを結ぶ線をあぶり出したのは素晴らしい仕事です。ハマーとゴア家、ロックフェラー家は原子力産業でも繋がっているはずです。刺激になります。
8. Posted by zero    2007年05月06日 15:12
2006年10月17日の記事について
「玉石混交」「迷宮」という言葉が思い浮かびます。一つ一つの情報や考察を解体して吟味するよう要求されていると感じます。

キリスト教に関して、成立時期に激しい闘争があったことも、現代のスクリーン上でさえ火花を散らせ続けている状況はご存じのとおりで、色々な方が色々な意見を表明し、また特定の方向へ導こうとします。肝心なのは、まず中心にある聖書そのもの神そのものに集中して、その核にあるものを掴むことだと思います。これだけは自分としては間違いないという足場を確保してからでないと、その上に家を建てるのは難しいでしょう。
9. Posted by zero    2007年05月06日 15:19
コメント2,3の「猿の惑星」などについて

宇宙船の名前ですか、「猿の惑星」も再見しなければならないようですね。

シェイクスピアの「ペリクリーズ」については不勉強で知りませんでした。近親相姦、謎解き、巫女、ダイアナなど盛り沢山です。さっそく当たってみたいと思います。

情報をありがとうございました。

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