2007年04月03日
書籍「暗黒の女神」(ロバート・グレイヴズ著)のメッセージ
女神の復活と女系社会への再転換(ハイパー・ルネッサンス)
「神とマモンに兼ね仕えることはできない」と聖書に記述(マタイ6-24他)されながら正体が明らかでない「マモン」について知るため、ロバート・グレイヴズの講演集「暗黒の女神」を読みました。そこから意外にもデイヴィッド・ロックフェラー一派の思想の核心に迫る手がかりを得ることができたようです。
<参照>松岡正剛の千夜千冊『暗黒の女神』
グレイヴズはマネー(金)の源を求めて歴史を遡行し、純粋な「愛」から始まった行為が、次第に「私利私欲」へと堕し、現代の拝金主義へと連なる下方の系譜を見出します。
母の子に対するギフト > 無償のギフト > 義務のギフト > 物々交換 > マネー > 不義のマネー
彼によれば、マネー時代の聖書は、マネー全般を批判したのではなく、ギリシャ・ローマの神ヘルメス(盗賊と外交を職業とする人々の神)への信仰に基づくマネー観を「マモン」と表現して戒めたのだそうです。キリスト教によって抑圧されたこの神は、教会の権威が失墜した近世になって栄光を取り戻したと彼は解説します。現代は不義のマネーが横行するマモンの時代という訳です。
グレイヴズはさらにこの変遷を「男系社会」「女系社会」の概念を用いて俯瞰します。書籍「暗黒の女神」から両社会の特徴を拾い出します。
【男(父)系社会】 男神 遊牧 山岳 太陽 昼 交換 マネー
【女(母)系社会】 女神 農耕 平野 月 夜 愛 ギフト
愛から私利私欲への変遷は、女系社会が男系社会によって駆逐される過程に一致すると彼は見たのです。
ユダヤ・キリスト教は山岳の神「エル・シャダイ」を奉じる遊牧民(羊飼い)の宗教です。旧約でも新約でも父系血統が連綿と綴られます。キリスト教に母神はいません(その反動で人間マリアが母性原理を担う)。この遊牧民が平野カナンの地に移住し、その地を支配していた農耕民と彼らの奉じる母神を駆逐します。旧約聖書の最大の敵は地母神バアルでした(地母神については異説あり)。
以前の記事で、女神ガイアがデルフィ(デルフォイ、デルポイ)神託所の主宰神の地位を男神アポロンに譲り渡した歴史に触れました。ギリシャ神話でもガイアが男神ゼウスに全宇宙を統括する権力を奪われた経緯が物語られます。紀元前10世紀頃にギリシャで大きな転機、女系社会から男系社会への転換があったことが窺われます。ヘルメスはギリシャが男系社会に移行した後の神です。ですから、グレイヴズにとってはマネーがマモンに侵食された近代以降の状況より、古代に生じた女系社会から男系社会への転換こそが重大事でした(彼はマモンと崇拝者をさほど非難しません)。
「現代の混沌とした倫理観は、男性と女性の原理のバランスを崩した有史時代も初期における革命、すなわち母系から父系への交代から結果するものと信じて」いる彼は、マネーに留まらない「現代の病理」を治癒する方策として反革命、つまりキリスト教の後退と古代の女神復活を待望します。ガイアよりさらに古く、メソポタミア時代の支配神イシュタルを彼は「暗黒の女神」として仰ぎます(暗黒>闇・夜>知恵)。
グレイヴズの思想の輪郭が描けたところで、私たちの関心領域に引き寄せてみます。映画「レディインザウォーター」は二分された世界(ナーフ)をガイアが再統合するとのメッセージを発していました。この二分を「男系社会と女系社会」と見れば、メッセージをより理解できます。プロローグの語りを想起してください。女神ガイアからのメッセージが神託として届いていた(紀元前10世紀以前の)時代にあって世界は統合されていました。しかしその後男神支配(ギリシャ・ローマ〜キリスト社会)が確立し世界は好戦的・暴力的で愛のないものに変質します。そこから女系社会に世界を回帰させ、愛と平和を取り戻すべく(そして世界を再統合すべく)女神復活の物語が幕を開きます。
(参考)映画「レディインザウォーター」のメッセージ8
映画「レディインザウォーター」の登場人物クリーブランドは、暴力の犠牲となった者たち(家族)を思って慟哭しつつ、女神ガイア復活の儀式を執り行いました。グレイヴズもまた、自身第一次世界大戦に従軍し、人間の残虐さに衝撃を受け、古代の女神再生に希望を掛けたのです。グレイヴズがデイヴィッド・ロックフェラーの行動の思想基盤を提供しているとまで今は言うつもりはありません。しかし、少なくとも両者の思想と動機は一致します。
女系社会への再転換(復帰)を通して愛と平和の世界を実現する―デイヴィッド・ロックフェラーの構想は、想像以上に理性(エンライトメント)的です。ユダヤ民族問題を懐に抱きつつ、この大義名分を立てれば、共鳴する人間は決して少なくないでしょう。そして現に、民族の垣根を越えて多くの人間たちが彼に協力しているのです(金と権力目当ての人間も多く混じっているとは思いますが)。
断続的ながら、しばらくこのテーマを追うことにします。(記事集「ハイパー・ルネッサンス」に格納します)
【注記】以上はグレイヴズの思想に沿って記述しており、私の考えとは異なる個所が多々あります。例えば、キリスト教はアガペー(無償の愛)に貫かれており、ユダヤ教を含めギフトをその本質としていると私は理解しています。またキリスト教が男神崇拝であるとも考えません(カトリックの歪んだマリア崇拝のことではありません)。そもそも世界が暴力と戦争で満たされているのは、自分たちの大義名分を掲げて犠牲を厭わず邁進する者たちがいるからです。いくら表面だけ女系社会に移行してみても、以前より悪化した状況に彼らは戸惑うことになるでしょう。
「神とマモンに兼ね仕えることはできない」と聖書に記述(マタイ6-24他)されながら正体が明らかでない「マモン」について知るため、ロバート・グレイヴズの講演集「暗黒の女神」を読みました。そこから意外にもデイヴィッド・ロックフェラー一派の思想の核心に迫る手がかりを得ることができたようです。
<参照>松岡正剛の千夜千冊『暗黒の女神』
グレイヴズはマネー(金)の源を求めて歴史を遡行し、純粋な「愛」から始まった行為が、次第に「私利私欲」へと堕し、現代の拝金主義へと連なる下方の系譜を見出します。
母の子に対するギフト > 無償のギフト > 義務のギフト > 物々交換 > マネー > 不義のマネー
彼によれば、マネー時代の聖書は、マネー全般を批判したのではなく、ギリシャ・ローマの神ヘルメス(盗賊と外交を職業とする人々の神)への信仰に基づくマネー観を「マモン」と表現して戒めたのだそうです。キリスト教によって抑圧されたこの神は、教会の権威が失墜した近世になって栄光を取り戻したと彼は解説します。現代は不義のマネーが横行するマモンの時代という訳です。
グレイヴズはさらにこの変遷を「男系社会」「女系社会」の概念を用いて俯瞰します。書籍「暗黒の女神」から両社会の特徴を拾い出します。
【男(父)系社会】 男神 遊牧 山岳 太陽 昼 交換 マネー
【女(母)系社会】 女神 農耕 平野 月 夜 愛 ギフト
愛から私利私欲への変遷は、女系社会が男系社会によって駆逐される過程に一致すると彼は見たのです。
ユダヤ・キリスト教は山岳の神「エル・シャダイ」を奉じる遊牧民(羊飼い)の宗教です。旧約でも新約でも父系血統が連綿と綴られます。キリスト教に母神はいません(その反動で人間マリアが母性原理を担う)。この遊牧民が平野カナンの地に移住し、その地を支配していた農耕民と彼らの奉じる母神を駆逐します。旧約聖書の最大の敵は地母神バアルでした(地母神については異説あり)。
以前の記事で、女神ガイアがデルフィ(デルフォイ、デルポイ)神託所の主宰神の地位を男神アポロンに譲り渡した歴史に触れました。ギリシャ神話でもガイアが男神ゼウスに全宇宙を統括する権力を奪われた経緯が物語られます。紀元前10世紀頃にギリシャで大きな転機、女系社会から男系社会への転換があったことが窺われます。ヘルメスはギリシャが男系社会に移行した後の神です。ですから、グレイヴズにとってはマネーがマモンに侵食された近代以降の状況より、古代に生じた女系社会から男系社会への転換こそが重大事でした(彼はマモンと崇拝者をさほど非難しません)。
「現代の混沌とした倫理観は、男性と女性の原理のバランスを崩した有史時代も初期における革命、すなわち母系から父系への交代から結果するものと信じて」いる彼は、マネーに留まらない「現代の病理」を治癒する方策として反革命、つまりキリスト教の後退と古代の女神復活を待望します。ガイアよりさらに古く、メソポタミア時代の支配神イシュタルを彼は「暗黒の女神」として仰ぎます(暗黒>闇・夜>知恵)。
グレイヴズの思想の輪郭が描けたところで、私たちの関心領域に引き寄せてみます。映画「レディインザウォーター」は二分された世界(ナーフ)をガイアが再統合するとのメッセージを発していました。この二分を「男系社会と女系社会」と見れば、メッセージをより理解できます。プロローグの語りを想起してください。女神ガイアからのメッセージが神託として届いていた(紀元前10世紀以前の)時代にあって世界は統合されていました。しかしその後男神支配(ギリシャ・ローマ〜キリスト社会)が確立し世界は好戦的・暴力的で愛のないものに変質します。そこから女系社会に世界を回帰させ、愛と平和を取り戻すべく(そして世界を再統合すべく)女神復活の物語が幕を開きます。
(参考)映画「レディインザウォーター」のメッセージ8
映画「レディインザウォーター」の登場人物クリーブランドは、暴力の犠牲となった者たち(家族)を思って慟哭しつつ、女神ガイア復活の儀式を執り行いました。グレイヴズもまた、自身第一次世界大戦に従軍し、人間の残虐さに衝撃を受け、古代の女神再生に希望を掛けたのです。グレイヴズがデイヴィッド・ロックフェラーの行動の思想基盤を提供しているとまで今は言うつもりはありません。しかし、少なくとも両者の思想と動機は一致します。
女系社会への再転換(復帰)を通して愛と平和の世界を実現する―デイヴィッド・ロックフェラーの構想は、想像以上に理性(エンライトメント)的です。ユダヤ民族問題を懐に抱きつつ、この大義名分を立てれば、共鳴する人間は決して少なくないでしょう。そして現に、民族の垣根を越えて多くの人間たちが彼に協力しているのです(金と権力目当ての人間も多く混じっているとは思いますが)。
断続的ながら、しばらくこのテーマを追うことにします。(記事集「ハイパー・ルネッサンス」に格納します)
【注記】以上はグレイヴズの思想に沿って記述しており、私の考えとは異なる個所が多々あります。例えば、キリスト教はアガペー(無償の愛)に貫かれており、ユダヤ教を含めギフトをその本質としていると私は理解しています。またキリスト教が男神崇拝であるとも考えません(カトリックの歪んだマリア崇拝のことではありません)。そもそも世界が暴力と戦争で満たされているのは、自分たちの大義名分を掲げて犠牲を厭わず邁進する者たちがいるからです。いくら表面だけ女系社会に移行してみても、以前より悪化した状況に彼らは戸惑うことになるでしょう。
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この記事へのコメント
1. Posted by zero
2007年04月03日 21:22
最近の研究により、今回採り上げた大義名分が外向けのものと分かっています。混乱を避けるため、しばらくこの大義名分を考察した後に、コアグループの思想へと分け入りたいと考えています。
2. Posted by zero
2007年04月03日 21:23
イシュタルは、グレイヴズによるとアナサ、エウリュディケーと同一神。他の情報によれば、アスタロト(アシュタロテ)、ヴィーナスも同一。イースターの語源とも。
3. Posted by zero
2007年04月03日 21:24
映画「トゥモロー・ワールド」で新たな救世主が女児だったのは女系復活を念頭に置いたものだったかもしれません。

