2007年03月25日

映画「トゥモロー・ワールド」(アルフォンソ・キュアロン監督)のメッセージ

リメンバー68年革命「キリスト教から自由な世界」

前回の記事に「映画『マイノリティリポート』のテーマは『運命を変えられるか』である」と書きました。映画「デジャヴ」と、そして「マトリックス」3部作も同じテーマに貫かれた作品ですが、今回取り上げる映画「トゥモロー・ワールド」もこのグループ作品の一つに数えることができます。
(参考)映画「デジャヴ」のメッセージ
映画「マトリックス」のメッセージ2

登場人物たちは言葉にしてそのテーマを観客に示します。いわく、「この世界では太古から『意思と運命』の抗争が繰り広げられている。主人公テオ(Theo/セオとも)と元の妻ジュリアンは、平和を求める意思により結ばれたが、運命に敗れて離別した」―果たして意思は運命に勝てないままなのか?テーマの立て方から、グループ作品に共通する結末については容易に推測できるでしょう。

プロットの中心は奇跡的に妊娠した若い女性(キー)に置かれています。2008年を境に人間は生殖能力を失っています。人類が滅びようとする世紀末的世情の中、強権政治を行うイギリス政府に対して平和と自由を求める反乱勢力「フィッシュ(複数形)」が立ち上がり、移民とは言えなぜか敵視する政府の手からキーを守ろうとします(無理な設定)。この女性とやがて誕生する新生児の描写が特徴的です。

キーは移民収容所(ナチス時代のゲットーを想起)の一角、厩(うまや)のような粗末な部屋で出産します。戦場を逃げ惑うキーの腕に抱かれた新生児に気づいた人々は驚き、戦闘を忘れて見入ります。ある者は手を合わせて拝み、ある者は神の名を呟きます。世界を救う方がお生まれになった―作品はこの新生児をイエス・キリストの再来として描いています。

反乱勢力フィッシュは、東洋趣味で味付けされてはいるものの、明らかにキリスト教がベースの宗教を奉じています(フィッシュ=魚はキリストのシンボル)。そして新生児を海に逃がすシーンは、モーゼをも寓意しており、キリスト教だけでなく、ユダヤ教までも作品に取り込んでいます(同じシーンの洞窟状の部屋と壁の象徴像はキリスト教初期のカタコンベを想起させます)。

では、映画「トゥモロー・ワールド」は何かキリスト・ユダヤ教的メッセージを発しているのでしょうか?母親のキーは貞淑からはほど遠く、妊娠した腹を示しつつ「私は処女」と冗談を口にします。とてもイエス・キリスト、あるいはカトリックが崇拝するマリアに敬意を払っている様子ではありません(ちなみに新生児は敢えて女児と設定)。その答えはエンドロールの背景に流れる曲の歌詞でも示されます。DVD字幕から引用します。
<参照>ASK Lyrics (歌詞検索サイト)

君が何の旗を振っているか
君の名さえ知りたくない
君のことは何も知らなくていい
君はここに来てくれた
そして決断を下してくれる

ただ一つ言っておこう
あれやこれや考えるのもいい
これだけは忘れないで
人々に自由を与えてくれ
それも今すぐ!今すぐ!今すぐに!

おれたちは降参して捕まった
皆不安におびえてる
恐怖を追い払うのは愛
だから叫ぼう 大声で
今すぐやろう!今すぐ!今すぐに!

君が従ってるルールは何か
君のゲームにも興味はない
自分でクールと思っているなら
"666"それが君の名前

仲間とジャレ合ってもいい
だが忘れてはいけない
君の出番が来たのだ
今こそ君が目覚める時
人々に自由を与えてくれ
それも今すぐ!今すぐ!今すぐに!

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが1973年にリリースした曲"Bring on the Lucie(Freda People)"です。Lucie(詞中の"君")はフリージア帽を被り旗を高く掲げた自由の女神のことと思われます。作詞者はこの像をキリストの敵"666"を引いてキリスト教からの自由を求めるシンボルと位置づけているようです。お前はこれまで多くの犠牲を要求した。しかし今こそ、口上どおり人々を自由にしてくれ。

もう争いは嫌だと叫ぶこの曲(多分)とは異なり、映画「トゥモロー・ワールド」は多くの登場人物を犠牲にします。「世界をキリスト教・ユダヤ教から解放する新しい救世主」のために登場人物たちは進んで命を投げ出します。映画「デジャヴ」のテロリストが同じ理屈(自由に捧げられる犠牲)でテロを決行していたことが思い起こされます(同じ思想の裏と表)。さあ立ち上がれ、強い意志があれば運命は打破できる、自由のためなら犠牲を厭うな―作品は観客を扇動します。

キリスト・ユダヤ教の物語・伝統に沿いながらこれを否定するのは彼らの十八番です。映画「ダヴィンチ・コード」もそうした作品のひとつでした。認識レベルだけではありません。行動レベルでもヨハネ黙示録をなぞりながらキリスト勢力を打倒しようとしていることは既に何度も指摘してきました。

以前の記事に「1968年キャンペーンが行われている」と書きました。映画「トゥモロー・ワールド」は上の73年の曲を象徴的に使用し、登場人物の一人(テオの父親)を麻薬常習者(売人)のヒッピーとしました。映画「レディインザウォーター」ではボブ・ディランの曲が頻繁に使われ(ちなみに上の新生児の名前はディラン)、やはりスモーカーと呼ばれるヒッピー風のグループが登場しました。反権力がすなわち反キリスト教を意味してもいた当時のムーブメントを彼らは再来させたいのです。
(参考)1968年のメッセージ1
映画「レディ・インザウォーター」のメッセージ3

911事件の前にパールハーバーを人々の脳裏に蘇らせた彼らは、今また1968年革命(60年代)を回顧させるキャンペーンを精力的に展開しているようです。

トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション

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この記事へのコメント

1. Posted by zero    2007年03月25日 13:11
リメンバー1968年革命キャンペーンは彼らのプロジェクト全体に関わり、主に来年に照準が合わされています。今年起こる事件は「南北戦争」に関連づけられており、この方向のキャンペーンも鋭意展開中と思われます。

(スピルバーグの新作映画「リンカーン」はどうなったのでしょうか?)
2. Posted by zero    2007年03月25日 13:12
反乱勢力フィッシュはストーリー上は移民を助け、キーを匿います。しかし彼らはキリスト教の象徴を身に帯びていて、制作者の打倒対象でもあります。この縺(もつ)れがフィッシュを分裂させます(敵とされたグループは殊更残虐に描かれている)。

脚本の品質の低さがここにも示されています。
3. Posted by zero    2007年03月25日 13:13
前の記事で映画「マイノリティリポート」と「デジャヴ」が鏡像作品だと指摘しました。実は映画「トゥモロー・ワールド」と「レディインザウォーター」もとても似ています。1968年回帰の他に、「平和と自由」の標榜、エスニック(マイノリティ)の人々(スクリーン上を多様な言語が飛び交う)、鏡への拘り(「トゥモロー」では連絡員の呼称)、666の示唆―ここにも鏡像が見出せます(「トゥモロー・ワールド」は同じグループが敢えて手を抜いて製作したような作品)。
トゥモローワールドはブルーワールドと何か違いがあるのでしょうか?
4. Posted by zero    2007年03月25日 13:15
気になっている記号があります。

一つはテオが描いた「舟」の図像。タッチが「レディ」と似ており、また「アイランド」で舟(復活号)は自由のシンボルでした。彼らの旗印かもしれません。

もう一つは「犬」。シーンのあちこちで犬が登場し、味方を識別する記号として使われます。単に監督の趣味だったのでしょうか?それとも何か意味が?
5. Posted by zero    2007年03月26日 12:52
映画「デジャヴ」の主人公ダグは、ラストシーンでカーラジオから流れるビーチ・ボーイズの"Don't Worry Baby"(1964年)を聞いて既視感を覚えます。あの時代が今再現されつつあることがメッセージされていたのかもしれません。

私には版権だけの問題とは思えないのですが?
<参照>http://www.ritsumei.ac.jp/~hideytam/sfx/sfxv_content331.html(参考になります)
6. Posted by サトシ    2007年04月17日 14:50
トゥモローワールドも拝見しました。
60〜70年頃の音楽や文化の復活を意識させたい映画だと僕も感じました。ジャニス、シド、ジャスパー etc
ラストのbring on the lucieという歌は一体何からの解放を訴えているのか考えさせられました。
この「lucie」で連想した歌があります。
「Lucie in the Sky with Diamond」です。
LSDを暗示しているとの噂の歌ですが、よくフィクサー達が麻薬資金をダイヤなど貴金属に変えて保存するという話を連想しました。
ルーシーはレノンの息子「ジュリアン」のガールフレンドだったそうですね。

「beatles」と「stones」をあわせて「beast」になるって話をしている人もおり、最近の映画の68年を思い起させる傾向がやはり気になります。


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